情報科学屋さんを目指す人のメモ

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「Jアラートが鳴ったらどうすればいいのか・何をすべきか」の詳細・背景・目的意識について調べたときのメモ

Jアラート (14)

Jアラートが鳴ったらどうすればいいか」という具体的な行動を知るだけでなく、「どういう目的意識で行動したら良いのか」を知るとより良かったりするのではないか、と感じたのをきっかけに、政府が案内する「Jアラートが鳴った際の行動」が定められた背景や経緯が気になり、政府の公式な資料をいろいろと漁ってみました。

その調べた結果をメモしておきます。

今回読んだ中では、「国民保護における避難施設の機能に関する検討会」という資料が、過去の被害や核実験などを元に、どういう対策が良いのか、どういう建物が避難先に適しているのか、諸外国の場合はどういう避難方針になっているのか、などを分析しており、おすすめでした。

※関連:「Jアラートが鳴る」という表現は分かりやすいけれど微妙、という話についてはこちら

前置き1:Jアラートと被害の「軽減」

北朝鮮の弾道ミサイルが発射されてJアラートが鳴ったときどう行動すればいいのかについて、いろいろな場所で見聞きするようになりました。

例えば、「できる限り頑丈な建物や地下に避難する」などです(後述する「国民保護ポータルサイト」トップページより)

Jアラートが鳴った8月29日にはそれらの行動について、「数分間では避難できない・逃げる時間がない」「ミサイルに耐えられる建物なんて分からない」「(場所・時間が原因で)やろうにもできない」などの意見も多くありました。

「Jアラートが鳴っても数分では何もできないからJアラートは役に立たない」系の意見の一部関して、「Jアラートが鳴ってからの行動」のことを、「『ミサイルが頭の上に落ちて来て死んでしまう状況』からスタートして『無傷』を達成するための行動」と捉えて、それが達成できないのだから何をやっても無駄、数分じゃ無理、無意味、と捉えてしまっているケースがそれなりにあるのではないか、と感じました。

実際のところ、Jアラートが発動してからの行動は、「少しでも被害を小さくするための行動」と捉えたほうがよさそうに思います。

例えば、「Jアラートが無かったら死んでしまっていた状況から、重症で済むようにする行動」、「大けがしていたであろう状況から、軽傷で済むようにする行動」などです。

これらの「減災」的な考え方を意識できれば、Jアラートが鳴ってからの数分間の行動についてまた違った解釈ができて、より「少しでも何かしておこう」という行動に結びつけやすかったりしないだろうか、と感じました。

例えば「頭の上に降ってきた」というケースを暗に想定して「無意味」と考える人が目立ったのですが、「遠くに落ちて、その爆風が届く」といった状況を想像して少しでも対策をすれば、そのちょっとした対策が大きく被害の程度を軽減しうると考えられそうです。

前置き2:Jアラートが鳴った場合にとるべき行動はどう決まったのか

しかし「Jアラートが鳴ったときにどうすれば良いのか」の周知は、その「手段」や「個別の効果」の紹介になりがち(それを言わないとどうしればいいか分からないので当然)な一方で、「何を目指した行動なのか」「どういう目的意識で行動すべきか」「どういう想定でそれらの行動が設計されたのか」という部分はあまり周知されていない気がする、と思いました。

実際、自分もJアラートの仕組みについてはいろいろ読みましたが、Jアラートが使われた後の行動については、まだ詳しく調べたことがありませんでした。

そこで、「Jアラートが鳴った際の行動」が策定された背景や、意識について知りたい、と思ったので、いろいろ公開されている政府公式の資料を調べてみました。

それらの資料を読んで分かったことや、印象に残った部分を紹介します。

前提知識:「Jアラートが鳴ったときの行動」(ポスター)

国民保護ポータルサイトのトップページでは、弾道ミサイルが落下する可能性があるというメッセージがJアラート経由で流れたときどんな行動を取るべきか、以下の通り説明されています。

メッセージが流れたら
落ち着いて、直ちに行動してください。

(屋外にいる場合)できる限り頑丈な建物や地下に避難する。
地下:地下街や地下駅舎などの地下施設

(建物がない場合)物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守る。

(屋内にいる場合)窓から離れるか、窓のない部屋に移動する。

このポスターの内容は政府公式の対策として、いろいろな場所で紹介されています。

また、車に乗っている場合など、もう少し細かい具体例はこちらのQ&Aに載っています。

資料1:「国民の保護に関する基本指針」

国民保護ポータルサイトには、「国民の保護に関する基本指針」という、国民保護法に基づいて作成された重要な文章が掲載されています。

「被害を局限化する」意識

12ページでは、弾道ミサイル攻撃への対策について、次の通り留意点が説明されています。

○弾道ミサイルは発射後短時間で着弾することが予想されるため、迅速な情報伝達体制と適切な対応によって被害を局限化することが重要であり、屋内への避難や消火活動が中心となる。

この文章では、「迅速な情報伝達体制(ここにJアラートが含まれる)+適切な対応(直後の行動などがこちらに含まれる)」の目的意識が、「被害を局限化すること」に向けられていると分かります。

局限化とは、「ある一定範囲に限定する」というような意味で、この文脈の場合は、被害を「ゼロ」にするのではなく、「軽減/抑える」といったところを意味していると思われます。

「被害を防ぐ」「被害を回避する」ではなく「被害を局限化する」という表記から、被害は発生するかもしれないが、それをより小さくしよう、という目的意識が伺えます。

また、25ページでは次の通り書かれています。

○弾道ミサイル攻撃の場合には、次の点に留意する。
・弾道ミサイル発射の兆候を事前に察知できる場合には、対策本部長は、迅速に避難措置の指示をすることが重要である。ただし、事前に兆候を察 知した場合でも、発射された段階で攻撃目標を特定することは極めて困難であり、攻撃目標が判明した場合でも、極めて短時間で我が国に着弾 することが予測されるとともに、弾頭の種類により対応が大きく異なることから、対策本部長は、当初は屋内避難を指示するものとし、弾道ミサイル着弾後に、被害状況を迅速に把握した上で、弾頭の種類に応じた避難措置の指示を行うものとする。

背景を含め、「まず屋内へ」ということが強調されています。

この屋内への避難が大事、という意識は、先ほどのポスターとも一致します。

その文章の続きにも、ポスターの内容にきれいに対応しそうな内容が書かれていました。

・屋内避難を行わせる際には、関係機関は、できるだけ近傍のコンクリート造り等の堅ろうな施設や建築物の地階、地下街、地下駅舎等の地下施設に避難させるものとする
・その後、事態の推移、被害の状況等に応じ、対策本部長は、他の安全な地域への避難を指示するものとする。

まさにポスターにあった、「屋外にいる場合」の元になった文章のようです。

ポスターの内容と比べてみると「近傍の」が省略されている?

ここでポスターの内容をしっかり思い出してみると、屋外にいる場合について、「できる限り頑丈な建物や地下に避難する。地下:地下街や地下駅舎などの地下施設」と書いてありました。

この「できる限り」という強調は、普通に読むと直後の「頑丈な」にかかっているように読むかと思います。

このあたりの影響で、「どの建物が頑丈かなんて分からない」といった反応も見られたのだと思います。

しかし今回読んだ基本指針では、「できるだけ近傍のコンクリート造り等の堅ろうな施設や建築物の地階、地下街、地下駅舎等の地下施設に避難させる」と書かれており、「できるだけ」という強調は、「堅ろうな」という部分ではなく、「近傍の」にかかっています。

ポスターと基本指針との間には、かなり直接的な対応付けがあるように見えるのですが、改めて見直してみると、基本方針にあって、しかも強調されていた「近傍の(施設に避難する)」という要素が、ポスター全体を見回しても載っていません

ポスターを読むと、「できるだけ頑丈な建物を目指せ(近いかどうかは言及省略)」なのですが、基本指針では「ある程度以上頑丈な建物であれば、できるだけ近い建物を目指せ」と、最低ラインを超える建物であればどこでも良いのではやく屋内に避難してね、という意識が見えてきます。

このあたりの違いがもしかすると「どれが頑丈な建物だか分からない」や「(そんなに極端に頑丈な建物近くにないから)どうせ変わらない」といった反応を増やしたかもしれません。

この不一致感は気になるところですが、周知のしやすさ等のために省略した、という可能性も考えられて、微妙なところです。

もうひとつのPDF

実はポスターのPDFには、連番でもう一つ地味なPDF(こちらが1番)があり、そちらには「近くの」という言葉が「近ければ何でもいいんでしょ?」とならない程度のほどよい形で組み込まれています:

メッセージが流れたら、直ちに以下の行動をとってください。
【屋外にいる場合】
近くのできるだけ頑丈な建物や地下に避難する。
○ 近くに適当な建物がない場合は、物陰に身を隠すか地面に伏せ頭部を守る。
【屋内にいる場合】
○ できるだけ窓から離れ、できれば窓のない部屋へ移動する。
弾道ミサイル落下時の行動について、PDF注意

「近くに適当な建物がない場合は」という表現は、「遠くの建物まで大移動している最中に着弾したら大変だから、それよりかはその場で頭を守ってください」という強い意図を感じます。ポスターでは「建物がない場合」となっており、「近くに」という言葉が省略されています。

PDFをきれいに整えたる際に、「近くの」という要素を省略したように見えます。より短くシンプルに伝える、という意図があるのかもしれませんが、さすがにこのあたりの背景までは分かりませんでした。

資料2:「国民保護における避難施設の機能に関する検討会」

もうひとつ読み応えがあったのが、「国民保護における避難施設の機能に関する検討会報告書」という消防庁の資料です。

ここには、先ほどの基本指針に関連して、次の通り避難場所が整理されていました。

弾道ミサイル攻撃

屋内避難を指示
・近傍のコンクリート造等の堅ろうな施設
・建築物の地階、地下街、地下駅舎等の地下施設
その後、被害状況を迅速に把握した上で、弾頭の種類に応じた避難

ほぼ基本指針と同じですが、ここにも「近傍の」は引き継がれていました。

このすぐ次あたりに、こんな背景情報が書かれていました:

後述のように、諸外国では米国やドイツ等、冷戦時代に核攻撃に対する地下シェルターを設置した国も含めて、テロ等の緊急事態発生時においては、シェルター等の安全な場所へ避難する前に被害を少しでも軽減させるため、まず近隣の屋内施設に一時避難(退避)することが各種のガイドライン等により示されている

真っ先にシェルターに行くイメージでしたが、家の地下がシェルターでもなければ、下手に外に出る方が危険、ということなのでしょう(ここにも「少しでも軽減」という表現が)。

続きにより具体的なことも書いてあり、イメージが湧きます。

例えば、米国においては、FEMAが、NBC攻撃等発生時のガイドラインを作成しており、汚染された危険区域への露出を防ぐため、攻撃発生後2分以内に屋内施設へ退避するよう示しており、その場合、屋外に留まるよりも事後の治療効果が 10~80%向上するとしている。

このあたりを読むと、いかに「とにかく屋外に居るより屋内にいた方が良いか」が伝わってきます(※NBC攻撃は、核、生物、科学、の頭文字。ミサイルの文脈の場合は、NBC弾頭を搭載していた場合、として扱われる模様)。

この資料はこの後が充実していて、

  • 核実験の結果どの建物がどの程度残ったか
  • 広島に原爆が投下された際に1km圏内に残った建物はどんな建物だったのか
  • 湾岸戦争時の弾道ミサイル被害を軽減できた理由の分析

など、まさに「避難の背景」になる情報がいろいろと載っていました。例えばこんなことが書いてあります:

以上を整理すると、衝撃や爆風を緩和するためには、
① 屋外 < 木造施設 < 鉄筋コンクリート造施設 < 地下
② 同じ種類の屋内施設であれば、耐震改修等の構造の補強をしている施設
を一時避難(退避)先として選択することが望ましい。

この「地下の被害が小さい」というのも、過去の事例や核実験の結果などから導かれています。

しかしその一方で、地下は汚染された水流れ込むリスクがあったり、電気に依存しているなど、幅広い分析がなされています。

その他の資料

他にも、国民保護ポータルサイトからたどることのできる資料やまた違うところでは防衛白書など、いろいろな文章の中を探して読んでみましたが、やはり中心(出発点)となっているのは「基本指針」であり、それに加えてそこから避難について細かく説明されている「検討会報告書」、この二つの資料が、すぐ読めて「Jアラートが鳴ったらどう行動すべきか」という政府の案内の背景についていろいろ知ることのできるよい資料でした

本当は「基本指針」の内容がどう決まったのかを詳しく知って、さらに遡りたかったのですが、基本指針を策定する途中で行われたパブリックコメントや、原案となった「要旨」まで遡っても、あまり追加の背景(基本指針のさらに背景・決まる過程)について詳しく知ることはできませんでした。

ちょうど消防庁が発行している「消防の動き(平成17年2月号)」に掲載されている、

平成16年6月14日に成立し、9月17日に施行された国民保護法の第32条には、政府があらかじめ、国民の保護に関する基本的な指針(基本指針)を策定することとされており、内閣官房を中心に各省庁が協力して策定作業を進めています

の部分が詳しく知りたかったのですが。。。

とはいうものの、なかなか一般のニュースでは説明しない(時間が足りないであろう)深いところや細かいところを自由に興味深く読むことができました。興味がある方は是非。

参考

  • 減災 - Wikipedia(「減災とはあらかじめ被害の発生を想定した上で、その被害を低減させていこうとするものである」←Jアラートを受けてどう行動するか、に対応しそうな表現)
  • 災害 - Wikipedia(「武力攻撃災害」への注釈が興味深い)
  • ダメージコントロール - Wikipedia(「被害自体を受けないようにする行為は「ダメージコントロール」の分野には含まれず、あくまで被害を受けた場合にその被害局限の対策を指す」←被害局限という言い回しが登場)

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