情報科学屋さんを目指す人のメモ

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赤潮と夜光虫の関係/注意点/よくある誤解について(鎌倉/湘南/由比ヶ浜での赤潮発生、2017年5月11日更新)

生物 (1) 鎌倉 (1)

由比ヶ浜など、鎌倉の海岸で大規模な赤潮現象が発生しているというニュースを見て、気になって赤潮や夜光虫について調べたことや、それらの興味を持った人のツイートを見て気が付いたことについてメモしておきます。

※5月9日(火曜日)現在の赤潮の状況と夜光虫の状況について追記あり本日再び夜光虫の目撃が増えています

赤潮と夜光虫についての前提事項

そもそも「赤潮が何か」が間違っているとややこしいので、最初に最低限の話を書いておくと、赤潮は、プランクトンの大量発生によるものです。

そして、赤潮を引き起こすプランクトンにも多数の種類があります。

その赤潮の原因となるプランクトンの中のひとつに、「夜光虫(ヤコウチュウ)」があり、夜になるとその青い光が観測できる、という仕組みです(夜光虫は「昆虫」ではありません)。

物理刺激で光るため、波があるとより光って見えるほか、石を投げたり、手や足で刺激するることでも発光が促されます。

赤潮の出ている海に入っても大丈夫なのか

一番最初に気になったのは、「赤潮の出ている海に入って大丈夫なの?」というところです。

というのも、ニュース映像で、親子が赤潮の出ている海で遊んでいたので。

赤潮を発生させるプランクトンの中には毒を持つものがあり、それを食べた「貝」にその毒(貝毒)が蓄積されると、その貝を食べた人間に症状が現れる、という話が見つかりました。

人に害のある赤潮もありますか
<貝毒>
 人のひ害の代表として貝毒があります。 引用元

しかしこれは、赤潮の発生している海に足を入れたからどうなる、口に入ったからどうなる、という話ではなく、あくまで貝に蓄積した場合の話のようでした。

というより、赤潮の毒の話を調べるとそればかりが出てきてしまい、さっと読んだ感じでは、赤潮に触れて発生する、健康に大きく関わる問題や注意は目に触れませんでした。

海外には毒性が強いものも

ひとつ目を引いたのは、日本にはいないプランクトンであるものの、積極的に毒を出して魚をしびれさせて食べるようなプランクトンもある、という話です。あまり積極的に赤潮に触れたいとは思えませんでした。

それだけではありません。プランクトンが出す毒はガスのように空気中をただよって、これをたくさん吸い込んだ人は、記憶がなくなったりします。このプランクトンは日本では見つかっていません。 引用元

よく、赤潮の影響で魚が死ぬ、という話が言われますが、魚が死ぬ原因は魚ならではで、人間への影響とは別物のようです。

赤潮が魚介類に与える影響は幾つかに分類される。
・溶存酸素濃度の低下
・鰓にプランクトンが詰まる事による物理的窒息
・藻類が産生する毒素による斃死 引用元

※一番下の「藻類が産生する毒素による斃死」が貝毒の話。

最近の別の赤潮についてのニュース

先月末に鳥取県で発生した大規模な赤潮についてのニュースでは、「毒性はなし」という話が前面に出ていました:赤潮が発生、毒性はなし 鳥取県沿岸一帯 | 日本海新聞 Net Nihonkai

毒の前に匂いがヒドイ問題

ただその毒がどうこう、という話以前に、赤潮が発生した状態の海はとても生臭く、入りたい気持ちにならないのが普通ということが並行して分かりました。

そのあたりについては、今日実際に赤潮を見た人のツイートや、赤潮の臭いを嗅いだことのある人のツイートを見るとよく分かります。

また、特に入りたくなくなるのは、洋服などに付いた場合に匂いが取れずに困るという話です。ズボンを捲くって入る、とかいかにも危なそうです。

この点だけを考えても、赤潮の海に入ったり手で触れたり、ということは試みない方が良さそうです。

※5/6のNHKのニュースでは、赤潮発生中の海岸でサーフィンをした女性がインタビュー中で「そこ(赤潮)に入っちゃうとだいぶ苦しかったです、息をするのが」と振り返りながら答えており、放送時にはTwitterなどで「えら呼吸でもしているのか?」と話題でした。ハッキリとしたことは放送されていないものの、女性はその発言に「気持ち悪くなっちゃうくらい。」と続けていることからも、これも「強い臭い」が赤潮から発せられている影響で、赤潮の上をサーフィンしていると呼吸するのが辛かった、という話なのだと思われます。

夜光虫を見に行くにも臭う

臭いの問題は、「赤潮」として見るだけの日中だけでなく、「夜光虫」目当てで見に行った際も同様です。

夜光虫の感想自体は「夜光虫の光がきれい・幻想的・海のオーロラみたい」という話が多いものの、その中には「臭いが気になる」という話がかなり混じっています。

これから夜光虫を見に行く人も居ると思うのですが、臭いについては事前に把握して、気を付けた方が良さそうです(生臭い臭いが苦手な人、服装、海水に触れるかどうか、どこまで近づくか、などなど)。

現在Yahoo!トップに掲載されている、きれいに発光する由比ヶ浜の夜光虫を紹介したニュース記事を読んでも、その臭いについては触れていなかったので特に。

赤潮→夜光虫というのは勘違い

赤潮の原因は夜光虫なので、夜になると光る」「光る原因は夜光虫で、夜光虫が実は、昼間の赤潮だった」といった話を見聞きして、「赤潮=夜光虫」のような解釈をしている人が多いようだったのですが、実際のところ赤潮自体は多数のプランクトンで発生するもので、そもそも夜光虫が毎回含まれているとは限らないものです。

なので、「次赤潮が発生したら夜光虫を見に行こう」というのはハズレる可能性があります(特に場所が違うと)。

赤潮→富栄養化とは限らない

一般的な赤潮の主な原因は「富栄養化」ですが、必ずしも赤潮が富栄養化と強く関連しているとは限らず、特に今回注目されている夜光虫は、富栄養化との関連が小さいプランクトンのようです。

大発生時には海水を鉄錆色に変え、時にトマトジュースと形容されるほど濃く毒々しい赤茶色を呈する。春~夏の水温上昇期に大発生するが、海水中の栄養塩濃度との因果関係は小さく、ヤコウチュウの赤潮発生が即ち富栄養化を意味する訳ではない。比較的頻繁に見られるが、規模も小さく毒性もないため、被害はあまり問題にならないことが多い。 引用元

「規模も小さく毒性もないため、被害はあまり問題にならないことが多い」というのは、ニュースで紹介されていた漁業関係者へのインタビューでの「今のところ漁業への影響はない」という話は、こういった特徴によるのかもしれません。

夜光虫が青色に光る仕組み

また、「夜光虫は月明かりで発光するらしい」という発言もあったりしたのですがそれは誤解で、夜光虫が光るのは、月明かりなどに反応しているのではなく、ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応と呼ばれる、発光物質とその触媒となる酵素とが起こす化学反応によるものです。

参考:生物発光と化学発光の分子機構(PDF)

夜光虫が放つ「青い光」を、放射能やウランなどと関連付ける人もいるようですが、次のリンク先にもあるとおり、発光自体は単純な酸化反応によるものです。

酸素の存在下,ルシフェラーゼの触媒によりルシフェリンの 132 位が酸化され,酸化型ルシフェリンが生じるときに青色光(極大波長=474 nm)が放出される(スキーム 1)。実際には,渦鞭毛藻に外的刺激が加わると反応が進行し,0.1秒以下の速いフラッシュとして光が観察される。
(引用元:渦鞭毛藻の発光 | 日本藻類学会創立50周年記念出版(PDF)

「渦鞭毛藻に外的刺激が加わると反応が進行し」という記述が、波しぶきや、足で踏んだときなどの物理的な刺激で光ることに対応しているようです。

夜光虫には光る時間帯がある

今紹介した文献では、夜光虫の発光が概日性リズムという性質を持つことにも触れています。

概日性リズムとは、生物が約24時間のサイクルで活動する性質のことで、夜光虫の場合それは「夜にだけ光る夜にしか光らない」性質のことを意味しています。

ただ暗ければ光るというわけではなく、「光る時間帯がある」ということです。

夜暗くなったばかりの時間帯には光が少なく、深夜遅くになって夜光虫がはっきり観測されているのは、ただ周囲の明かりが少なくなった影響だけでなく、この概日性リズムも影響していると考えられそうです。

夜光虫はどうして光るの?目的は?

光る仕組みが分かると気になってくるのが、「夜光虫は何のために光るの?」という「なぜ」ですが、これについてはいろいろな文献で「よく分かっていない」と説明されていました。

そもそも渦鞭毛藻は,何のために光っているのだろうか?渦鞭毛藻が発光することの適応的意義については,補食者を驚かして身を守るため,あるいは自分が不味いことを敵にアピールする警告であるとも言われるが,明確なことは判っていない
(引用元:渦鞭毛藻の発光 | 日本藻類学会創立50周年記念出版(PDF)

光ることそのものに目的があるのか、それとも、化学変化で達成される目的があり、その際に副産物として発光してしまうのか。人間の目では「光る」現象ばかり注目してしまいますが、そのどちらとも現時点でははっきり分かっていないようです。

夜光虫の光とホタルの光は同じ?(5月8日追記)

5月8日8時20分頃のモーニングショーにて、コメンテーターの方が「夜光虫と螢は、種を超えて、同じ物質で光っている」と、発光物質「ルシフェリン」を紹介していました。

確かに夜光虫もホタルも、「ルシフェリン」の酸化反応が光っているのですが、そもそもルシフェリンは物質の「総称・種類」の名前であり、ホタルが光る原因となっている物質は「ホタルルシフェリン(Firefly luciferin)」、「渦鞭毛藻類ルシフェリン(Dinoflagellate luciferin)」と呼ばれる種類の、別の物質となっています。なので、「種を超えて同じ物質」と言うと、そこから発想を膨らまして少し勘違いされてしまうかもしれません。

参考:Luciferin - Wikipedia

地震と関連付ける人も

また違った話として、赤潮の発生と大地震発生とを関連付けて、赤潮の発生は地震の前兆なのではないか、と考えている人もいるようです。

「赤潮で魚が死ぬ」のメインの原因は酸素不足ではない?

いろいろ赤潮に関する文献に目を通していたのですが、赤潮で魚が死ぬ原因について、「海中の酸素不足」ではなく、「プランクトンが出す物質の影響で、エラが使えなくなる」という原因が、専門機関の文章中では紹介されていることに気が付きました。

香川県赤潮研究所の、魚が死ぬ理由についての説明文:

プランクトンが出す物質(不飽和脂肪酸、活性酸素等といわれている)が魚のエラをだめにすると考えられています。エラがこわれた魚は十分酸素をとりこめず死んでしまいます引用元

鹿児島県水産技術開発センターの、南日本新聞に掲載された「赤潮とは何か?」という記事中の説明文(※「鰓」の読み方は「エラ」):

赤潮状態のようにプランクトンが高密度に存在すると,ある種のプランクトンが持つ有害成分によって鰓の組織が傷つき,その結果,酸素を取り込めなくなり死んでしまうことが明らかになっています。 引用元

同じ「呼吸ができない」ではあるものの、「エラが使えなくなる」ことが原因、というのは意外でした。

混雑で渋滞発生中?

あまりに赤潮を夜から見に行く人が多いのでふと最近インストールした渋滞情報アプリたちで周囲を確認してみたところ、見事に鎌倉市の海岸付近が混雑していることが分かりました。

由比ヶ浜・長谷~江ノ島あたりまでの海岸線沿い一帯が真っ赤になっています。

時間帯も時間帯ですし、ニュース映像やツイートを見て、多くの人が来るまで集結しているようです。

実際、赤潮自体や夜光虫自体はそこまで極端に珍しいものではないようなのですが、これだけの大規模な赤潮・夜光虫の発光、となるとやはり珍しいことのようです。

さらに具体的に、どのあたりに人が集まって混雑しているのかを調べてみるために、Yahoo!マップの混雑レーダーを使ってみました。

これを見ると、現在人が多く集まっているのは、TVなどでも紹介された「由比ヶ浜」から、ツイッターでも話題の「材木座海岸(海水浴場)」あたりにかけて、のようです。

5月6日土曜日・5月7日日曜日にも夜光虫は見られる?

ここまで話題になってはいるものの、「時間が時間なので今日は見に行けない、明日は見に行けるかも、でも、明日も夜光虫は光るのかな?」という人が多いようです。

これについては専門家の意見がニュースに含まれていればよかったのですが、今のところ見当たりません。ただ、明日の日中の時点でも、赤潮が観測されて話題になっているのかを、Twitterなどで事前調査しておくと良さそうです。明日の日中の時点で赤潮がだいぶ解消されてしまっているのであれば望み薄、明日も赤潮が続いていれば、夜になれば夜光虫が見られるかも、といった具合です。

5月6日土曜日の赤潮・夜光虫の状況について

5月6日土曜日の赤潮および夜光虫の情報について確認してみたところ、鎌倉市観光商工課のTwitterアカウントが、本日も由比ヶ浜海岸で赤潮が発生していることを画像付きでツイートしていました。

またTBSニュースでは、今後も赤潮が発生しやすい状況が続く見込みであることを紹介していました。

湘南海上保安署によりますと、穏やかな天気が続くため今後もしばらくは赤潮の発生しやすい状況が続くのではないか、としています。 引用元

5月6日18時45分現在、まだ暗くなりきっていないので、観測できるかはっきりしていませんが、既に夜光虫を見ようという人々が、既に海岸に集まり始めている模様です。

夜光虫は海の表面に浮かびやすいプランクトンで、風の影響を受けやすいため、風向きの変化で見える見えないが大きく変わる可能性があります。

19時45分追記

夜光虫は「居る・居ない」だけでなく、物理的な刺激(基本は波しぶき)が重要なので風次第で見える見えないが変わります。ただ、昨日に比べるとその数はだいぶ少ないようです(19時台)。

深夜にかけて光が目立つように(2017年5月7日午前5時30分追記)

20時頃に夜光虫を見に行って、ほとんど光っていないからと帰った人が多かった一方で、21時以降やさらにそれ以降深夜にかけて粘った人も多かったようです。

粘った結果、夜遅くに海岸へ行った結果どうだったのか調べてみると、どうやら早い時間帯よりも随分しっかりと夜光虫を観察することができていたようです(昨日ほどではないものの)。

5月7日日曜日の赤潮・夜光虫の状況について

現在、話題となってから3日目の夜が近づいており、本日も夜光虫を見に行く人が増えています。ニュース番組「バンキシャ!」でも再び赤潮・夜光虫の青い光紹介され、近くだから行ってみよう、という人も増えているようです。

まだ暗くなっておらず、実際によく見えるのは夜遅く周囲が暗くなった深夜の時間であるため、本日の夜光虫の様子はまだ分かりません。少ないながら赤潮が発生してはいるものの、昨日同様、一昨日のような「滅多に見られないほどの規模で」というのは難しそうです。

その一方で現在は、鎌倉以外の赤潮が発生している地域、特に、鎌倉より西側の西伊豆・沼津近辺(三津浜・大瀬崎など)が、夜光虫が見られるのではないか、と注目されています。

20時25分追記:

5月8日月曜日の赤潮・夜光虫の状況について

本日は関東各地で真夏日となり、茅ヶ崎での赤潮発生が話題となっています。

前述の「概日性リズム」という夜光虫の性質により、暗くなってもすぐ光るとは限りません。注意してください。

23時50分追記

夜遅くなり、茅ヶ崎で夜光虫を見た、という人のツイートも増えてきています。

5月9日火曜日の赤潮・夜光虫の状況について

本日5月9日、20時現在、由比ヶ浜・江ノ島・茅ヶ崎・沼津(駿河湾)などで夜光虫報告があります。

特に駿河湾は昨日に引き続き(昨日以上に?)、夜光虫がよく見えているようです:

日中の赤潮の様子:

5月10日水曜日の赤潮・夜光虫の状況について

本日5月10日も、大瀬崎にて、はっきりとした赤潮が目撃されています。

翌日5月11日追記

その後、夜光虫が目撃されました:

販売される夜光虫

もともと夜光虫はペット(?)・インテリア(?)としても販売されているらしく、実際に調べてみると、Amazonでも取り扱っていました。

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夜光虫飼育セット お家で簡単に夜光虫が飼えるキットです。観察しやすいフラスコ付

参考

コメント(1)

  1. 少年Z
    2017年5月7日(日) 06:20

    初めまして。
    Twitterで夜光虫のツイートを拾い、みんな、夜光虫と赤潮の関係を意外としらないのなだと思い、簡単な解説をリプライしました。
    140文字では科学的知識を伝えるのは難しかったので、Google先生にこのブログを紹介してもらいました。

    夜光虫と赤潮の関係を科学的に考察をしている参考ブログとして紹介させてもらいました。事後の連絡ですいません。

    内容とキチンと引用元を示しているので、信用できると判断しました。

    これからも、更新、頑張ってください。
    では、失礼します。

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